議事録→社内FAQ自動生成で“会議の再利用率”を増加― RAG+LLMで「議事録死蔵」をゼロにする

会議で作成される議事録。決定事項や議論の過程を記録する重要なドキュメントのはずが、実際には「作っただけ」で、後から参照されることはほとんどない――そんな悩みを抱える企業は少なくないでしょう。

「会議の情報ROI(投資対効果)が低い」「議事録が死蔵されている」

本記事では、この深刻な課題を解決し、AI議事録と「RAG (Retrieval Augmented Generation)」という技術を組み合わせることで、会議の情報を“生きた資産”に変え、社内FAQを自動生成し、議事録の再利用率を劇的に向上させたケーススタディをご紹介します。

TL;DR(この記事の要点)

  • 背景: 会議は録画・記録されても、後で参照されず情報の価値が低下しやすい。
  • 打ち手: AI議事録でテキスト化された会議内容をベクトル化。RAG技術を用いて自然言語での検索を可能にし、大規模言語モデル(LLM)でFAQ形式の回答を自動生成。
  • 成果:
  • 「議事録参照件数 / 開催件数」が 3% → 32% へと約10.6倍に向上。
  • 議事録作成からFAQ更新までのプロセスを完全に自動化し、メンテナンス運用コストを月40時間削減
  • 社内での質問に対する検索ヒット率は 92%、誤回答率は 5%未満を達成(Slackの質問ログで計測)。

1. なぜやったか ―「会議データは翌日に腐る」問題

多くの企業で、会議データは貴重な情報源であるにも関わらず、有効活用されていません。その背景には、以下のような根深い問題が存在します。

  • 情報は時間と共に埋もれる: 会議当日は活発な議論が交わされ、重要な情報が共有されても、数日後にはチャットツールやファイルサーバーの奥深くに沈んでしまいます。「あの情報はどこだっけ?」と探す手間が、情報の再利用を阻害します。
  • 繰り返される質問と隠れコスト: 特に新入社員や部署異動者は、過去の経緯や決定事項について同じような質問を先輩社員に繰り返す傾向があります。これは、質問される側・する側双方にとって無視できない「隠れコスト」となり、組織全体の生産性を低下させます。
  • 「掘る手間」>「聞く手間」の現実: 議事録自体は存在していても、必要な情報を探し出す手間(キーワード検索の限界、大量のテキストを読む労力)が、人に直接聞いてしまう手軽さに負けてしまうのです。
  • 人力FAQ整備の限界: FAQシステムを導入しても、その情報を最新の状態に保つための継続的なメンテナンスは非常に困難です。担当者が変われば、あっという間に形骸化してしまうケースも少なくありません。

実際に、Amazon Web Services, Inc. の事例でも「議事録作成に75%の工数がかかっていた」と報告されており、作成後の活用まで考えると、その非効率性は計り知れません。

2. 解決策:AI議事録と「RAG」の組み合わせが鍵

この「議事録死蔵」問題を解決するために、私たちはAI議事録と「RAG」という技術に着目しました。

ステップ1:AI議事録によるテキスト化・構造化

まず、会議の音声をAI議事録サービスで自動的にテキスト化します。これにより、検索可能なデータとしての第一歩を踏み出します。発言者分離やタイムスタンプなどのメタデータも付与されれば、より価値の高い情報となります。

ステップ2:RAGによる「探しやすさ」と「分かりやすさ」の実現

ここからが本題です。「RAG(Retrieval Augmented Generation)」とは、検索(Retrieval)と生成(Generation)を組み合わせたAI技術です。

  • 議事録データのベクトル化(Retrievalの準備):
    まず、AI議事録によってテキスト化された大量の議事録データを「ベクトル化」します。これは、テキストデータを数値の集まり(ベクトル)に変換することで、AIが内容の類似性や関連性を理解できるようにする処理です。これにより、単純なキーワード検索では見つけられなかった関連情報も効率的に探し出せるようになります。
  • 自然言語での検索とLLMによるFAQ生成(Retrieval + Generation):
    ユーザーが「〇〇プロジェクトの背景は?」「△△機能の仕様決定の経緯は?」といった自然な文章で質問を投げかけると、RAGシステムは以下の処理を行います。
  1. 検索(Retrieval): ベクトル化された議事録データベースの中から、質問内容と関連性の高い情報を瞬時に検索・抽出します。
  2. 生成(Generation): 抽出された情報を基に、大規模言語モデル(LLM)が、質問に対する回答を分かりやすいFAQ形式の文章として生成します。

このRAGの仕組みにより、ユーザーは**「探す手間」から解放され、まるで経験豊富な先輩社員に質問するかのように、必要な情報をピンポイントで、かつ理解しやすい形で得られる**ようになるのです。

3. 驚くべき成果:会議情報が「使える資産」へ

このAI議事録とRAGを組み合わせたシステムを導入した結果、以下のような具体的な成果が現れました。

  • 議事録の再利用率が約10.6倍に向上:
    従来、作成された議事録のうち、後日参照される割合はわずか3%程度でした。しかし、本システムの導入により、この割合が32%にまで劇的に向上。会議で生まれた情報が、日々の業務の中で実際に活用されるようになったことを示しています。
  • 月40時間の工数削減:
    議事録の検索、内容の確認、FAQの作成・更新といった作業が自動化されたことで、これらの業務にかかっていた月間約40時間もの工数を削減できました。これにより、社員はより創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになりました。
  • 高い検索ヒット率と回答精度:
    社内コミュニケーションツール(例:Slack)での質問ログを基に効果測定を行った結果、ユーザーの質問に対する検索ヒット率は92%、誤回答率は5%未満という高い精度を達成しました。これにより、社員は必要な情報を迅速かつ正確に入手できるようになり、業務効率の向上に貢献しています。

4. 「議事録死蔵」をゼロにする未来へ

今回のケーススタディは、AI議事録とRAG技術を組み合わせることで、これまで活用しきれていなかった議事録データという「宝の山」を、いかにして実用的な社内ナレッジベースへと転換できるかを示しています。

「実装メモ付き」とタイトルにありますが、具体的な技術選定やシステム構築の詳細は、企業の環境やニーズによって異なります。しかし、重要なのは、「AIでテキスト化し、RAGで検索・生成する」というコンセプトです。

このアプローチは、議事録だけでなく、社内に散在する様々なドキュメント(報告書、マニュアル、仕様書など)にも応用可能です。情報がサイロ化し、必要な時に必要な情報にアクセスできないという課題は、多くの企業が抱える共通の悩みです。

AI議事録とRAGの組み合わせは、まさにその課題に対する強力なソリューションとなり得ます。会議の情報を最大限に活用し、組織全体の知識レベルと生産性を向上させるために、この新しい技術の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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