労務領域にAI RAG(Retrieval-Augmented Generation)を導入する際、最も効果が出やすいユースケースの一つが一般社員向けの労務問い合わせ対応です。
しかし、
「RAGを導入したが、回答が曖昧になる」
「結局、人に聞いた方が早いと言われてしまう」
といった失敗例も少なくありません。
その成否を分けるのが、一般社員向けにどのようなデータセットを設計・学習させるかという点です。
本記事では、論文で整理した知見をもとに、一般社員向け労務RAGにおけるデータセット設計のポイントを解説します。
1. 一般社員向け労務RAGの前提条件
まず理解しておくべき前提があります。
一般社員からの労務問い合わせは、多くの場合、
- 労務の一般教養の延長線上にある質問
- 制度の概要や基本ルールの確認
- 「自分の場合はどうなるのか」という具体化
という性質を持っています。
このうち、労務の一般教養や基本的な法令知識については、
現在のLLM(大規模言語モデル)にすでに広く学習されています。
したがって、「労基法とは何か」「有給休暇の基本的な考え方」といった内容については、
RAGに学習させなくても一定の回答品質が期待できます。
2. RAGで必ず学習させるべき「会社独自の情報資産」
一方で、一般社員向け労務RAGにおいて必ずRAGで補完しなければならない領域があります。それが、会社独自の労務情報資産です。
代表的な例
- 就業規則
- 各種労務規程
- 規程で判断できない細則
- 会社独自の運用ルール
これらは、自社固有の情報であり、LLMには事前学習されていません。
そのため、これらの文書は必ずRAGのベクトルデータベースに学習させる必要があります。
一般社員向けRAGの回答精度は、「この会社独自情報をどれだけ正確に参照できるか」で決まります。
3. 一般社員向けFAQは「会社特有」に作り替える
多くの企業では、すでに以下のようなFAQが存在します。
- 有給休暇に関する質問
- 勤怠・残業に関する質問
- 申請方法に関する質問
しかし、これらのFAQをそのままRAGに学習させるだけでは不十分です。
重要なのは、会社特有のルールや運用を前提とした形にカスタマイズすることです。
例
- 法令上は可能だが、自社では不可としているケース
- 部署や雇用形態による違い
- システム上の実際の操作手順
FAQは、
「一般論」ではなく「この会社の場合どうなるか」という視点で整理し、ベクトルデータベースに学習させる必要があります。
4. 最も難しいのは「一般知識と自社情報の間の領域」
一般社員向け労務RAGで、
最も定義が難しく、かつ重要なのが次の領域です。
労務の一般教養・過去の法令と、自社の情報資産の間にある知識
この領域の代表例が、直近の法令変更とその解説です。
なぜ問題になるのか
- 最近の法令改正はLLMに未学習であることが多い
- 一般論だけで回答するとハルシネーションが起きやすい
- 自社への影響整理が不可欠
このような情報は、
- 法令改正の内容
- 施行日
- 自社への影響
- 自社ルールの変更有無
をセットで整理し、RAG専用のナレッジとして明示的に学習させる必要があります。
5. 回答精度を左右するのは「この中間領域の整理度」
論文および実務検証から得られた重要な示唆は以下です。
一般社員向け労務RAGの回答精度は、この「中間領域」をどこまで整理できるかで大きく変わる
- 最近の法令改正
- よく誤解されるポイント
- 社内ルールとの違い
これらをナレッジとして整備できている企業ほど、
- 回答の一貫性が高い
- 再質問が減る
- 社員の信頼を得やすい
という傾向が見られます。
6. 一般社員向け労務RAG設計のまとめ
一般社員向け労務RAGの設計ポイントは、次の通りです。
- 労務の一般教養はLLMに任せる
- 会社独自の規程・細則・就業規則は必ずRAGで補完する
- FAQは「会社特有」にカスタマイズする
- 最近の法令変更など中間領域を明示的に整理する
この設計ができたとき、一般社員向け労務RAGは「使われるAI」になります。
おわりに
一般社員向け労務RAGは、
最も効果が出やすい一方で、設計を誤ると信用を失いやすい領域です。
だからこそ、
AIの性能ではなく、労務データセット設計がすべてという視点が重要になります。
正しく設計された労務RAGは、社員の自己解決を促し、管理部門の負荷を大きく軽減する基盤となります。
社員向け労務RAGは「データ設計」が肝
一般知識はLLMに任せつつ、就業規則・細則・運用ルール、そして法改正などの“中間領域”をどう整理するかで回答の信頼性が変わります。AI労務君のサービス詳細ページで、データセット設計の考え方を確認してみてください。
