要約(Abstract)
日本企業における労務業務は、少子高齢化に伴う人材不足、ホワイトカラーの低生産性、法令改正への継続的対応といった複合的課題を抱えている。近年、生成AIの活用が進む中で、企業内業務への適用においては、誤回答リスクや説明責任、実務定着といった観点から慎重な設計が求められている。
本研究は、労務業務におけるAI RAG(Retrieval-Augmented Generation)の効果的な活用方法について、実務検証と設計思想の整理を通じて検討した。分析の結果、労務RAGの価値は、単なる自動応答や問い合わせ削減にとどまらず、RAGを中心に人・専門家・ナレッジが連携する業務基盤の構築にあることを明らかにした。
具体的には、労務RAGを「答えを出すAI」ではなく「根拠を提示するAI」として設計し、自動応答の対象をレベル1〜3に限定することで、誤回答やブラックボックス化のリスクを抑制できることを示した。また、Q&A形式データを中心としたデータ設計、更新管理を重視したメタデータ設計、労務業務に特化したプロンプト設計が、回答精度と利用定着に寄与することを確認した。
さらに、RAGと労務担当者とのシームレスな連携、ならびに社会保険労務士などの専門家との連携が、労務人材不足の補完や判断品質の向上に有効であることを示した。社員向けの労務RAGにおいては、回答精度が利用定着の前提条件であり、制度説明と労務システムの利用方法を統合した回答が、自己解決率の向上に寄与することが明らかとなった。
本研究は、労務業務におけるAI活用を技術論にとどめず、設計・運用・人材の視点から体系的に整理した点に新規性がある。本稿で示した労務RAGの活用モデルは、実務における安全性と有効性を両立する指針として、今後の企業内AI活用に資するものと考える。
